源氏香之図研究ノート(随時更新)

欧米の数学者への源氏香之図の伝播過程から、異文化受容と認知バイアスについて考察します

このブログについて

このブログは筆者が武蔵野美術大学の卒業制作として提出した下記論文の内容と、執筆のために調査した情報を共有するために開設しました。

芸術文化学科 造形研究コース 2019年度 卒業制作作品
『数学者の見た源氏香之図 ~欧米への伝播過程に見る異文化受容の認知バイアス~』
造形研究コース | 武蔵野美術大学 通信教育課程

源氏香之図について、香道や数学史ではなく異文化受容史の視点からの研究というのはおそらく前例がないと思います。 非常にニッチなテーマではありますが、いつかどこかで誰かの役に立つこともあるのではないかと考え公開することにしました。 卒業制作としての規定や分量の都合上、提出時には割愛せざるを得なかったことも多くありますので、ここでは一度研究ノートに戻り随時更新していく形をとります。

どんな調査をしたのか?

組合せ論を扱う数学文献において、集合分割の具体例として源氏香之図が示されることがあります。源氏香之図は香道で用いられる図柄ですが、海外の数学者が著した文献ではこれを詩の押韻パターンを表す図だと説明しているものが目立ちます。このような本来の用途と乖離した解釈が発生し定着した過程を文献調査によって探っていった結果、自分なりの結論を得るに至りました。またそれを基にして、異文化受容における問題を考察しました。

調査の結果分かったこと

源氏香之図が欧米の数学者から発見され、広く知られるようになったのは1970年代です。 まず、最初に発見された時点で香道という本来の用途が見落とされ、源氏物語の章見出しの記号として紹介されました。 その後、科学雑誌の記事で、詩の押韻パターンを数えるというテーマと関連付けて紹介されました。 結果、この記事を読んだ人たちは詩の押韻パターンを表すための図なのだ解釈してしまい、それが定説となったと考えられます。

調査結果から考察したこと

ある文化の事象が他の文化圏に伝わる時、はじめは内容が十分に理解されなかったり、情報が欠落したりということが起きがちです。 受け取った側ではそれを補ったり、保留したりという努力をしますが、その際に思い込みや誤解が発生することはなかなか避けられません。 特に情報源が少なかったり、確認や修正を受ける機会がなかったりすると、そのまま定着してしまう場合があります。 源氏香之図についての数学者の誤解はこの典型例です。